岡さんのこと
自分にとってのヒーローがこの世から居なくなってしまうという経験は、歳を取るにつれて多くなっていくのは仕方のないことです。でも今回はちょっと悲しみが強い。社名の通り、日本の先駆として広告業界を引っ張っていた、TUGBOATの岡康道さんの話。
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高校の時に出会った「グラフィックデザイン」という世界。その中でもとりわけ光り輝いていたのは広告業界で、カッコいいものが当たり前にテレビから流れていた時代でした。
商品の説明をしないことで仕掛けを見つけたくなるようなもの。おもちゃ箱のようにキラキラしたアイデアがたくさん詰まったもの。繰り返し見たくなる美しいものを作っていたのがTUGBOATだったと思います。
商品がいかに良いものなのかを声高に叫ぶもの=広告と思っていたので、それはもう常識が覆るような衝撃を受けました。高校生のくせしてです。
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そこから少し経ったある日、先生から勧められたコンペ『NHKミニミニ映像大賞』で、審査員が岡さんだということを知り、気合を入れてCM課題を作ってみました。そしたらなんと最終審査まで残ったのです。夢のような気持ちで新幹線に乗り、渋谷のNHKの収録に向かいました。
結果は準優勝。明らかに人生のピークです(笑)。でも、もうそれどころではなく「岡さんが目の前にいる!本物だ!」とばかり思っていました。
収録後の歓談タイムに、生意気にも名刺を持っていきました(先生から言われて仕込んでおいたもの)。それを受け取っていただき、ご自身のものを返してくれたのです。相手は高校生だというのに。優しい。
そして岡さんの作品集も持っていって図々しくサインまでいただきました。もうなんというか、怖いもの知らずですよね(笑)。
本当に夢のような時間でした。次の日朝イチで高校に戻って受けた物理のテストは予定通りさんざんでしたが。
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高校を卒業して芸術大学に進学することが決まって、改めていただいた名刺に連絡をしました。
書いた内容は進学に向けたくだらない悩みだったと思いましたが、真摯なお返事をいただけたことをいまでも感謝しています。
少しだけ抜粋をさせてください。
絶対に自分からは、逃れられない。
だから、僕は、客観などという言葉を信じていない。
アートディレクターになるには、まず美術大学にすすむことが、絶対条件です。
覚悟がいるぞ。がんばれ、がんばれ。
その力強い言葉を胸に大学に向かえたのは、本当にかけがえのない大事な思い出です。
僕は結局広告業界には行けなかったけれど、ものづくりは相変わらず楽しく続けています。
なんとかデザインを続けて、微力ながら「美しいものにつくることに責任を取る仕事」を僕に求めていただいて、たくさんのお客さまのお手伝いをしています。
岡さん、ありがとうございました。お疲れさまでした。